「電気は自分でつくれ」— トランプ大統領のデータセンター“義務化”宣言。まだ投稿だけ、でも日米で同じ流れが始まっている

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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10月21日、大統領がSNSに書いたこと

2026年10月21日(米国時間)、トランプ大統領が自身のSNS「Truth Social」に、データセンターについて投稿しました。報道をもとに要点をまとめます。

投稿の内容中身
自前の電気新しい大型データセンターは、自分で電気をつくることを「私が義務づけた」
余った電気余った電気は、地域や電力網に渡すか、売る。そうすれば電気代は上がらず、むしろ大きく下がる可能性もある
配当地域で歓迎されたい企業は、地域や住民に「配当」を払うべきだ。反対されていた計画も、お金の取り決めができれば歓迎されるようになる

ただし、大事な点があります。

  • 10月22〜23日の時点で、ホワイトハウスやエネルギー省から、大統領令などの法的な措置は出ていません。官報(Federal Register)にも載っていません
  • どの規模から対象になるのか、いつから始まるのか、どの役所が担当するのかは、どれも示されていません
  • 「配当」の金額や、その財源も分かりません

つまり今の段階では、「義務化」は投稿の言葉であって、まだ制度ではありません。この記事は、その前提で読んでください。

なぜ今、この投稿なのか

背景には、米国でデータセンターと電気代が政治の争点になっていることがあります。

背景中身
電気代の値上がり米エネルギー情報局(EIA)の見通しでは、家庭向けの電気料金は2024年の1kWhあたり16.5セントから、2026年には18.2セントへ、約10%上がる見込み
住民の反発3月のギャラップ社の調査で、71%の人が「自分の地域にAIデータセンターができること」に反対と回答
選挙11月の中間選挙を前に、データセンター反対が大きな争点に。共和党の上院選挙委員会は8月、民主党がこの問題を選挙戦の中心に据えていると警告していた
これまでの政策3月、政権は「Ratepayer Protection Pledge(電気料金を払う人を守る誓約)」を打ち出し、Amazon、Google、Meta、Microsoft、OpenAIなどが参加。データセンターに必要な送電網の増強費用などを自分たちで負担することを約束した。ただし法的な拘束力はなく、7月の拡大後は200以上の電力会社や開発事業者などが参加したとされる

今回の投稿は、この「誓約」から一歩進めて、電気そのものを自分で用意させる方向を打ち出したものといえます。

「配当」は、実際に効くのか

「お金の取り決めができれば歓迎される」という考え方には、すでに反例が出ています。

ペンシルベニア州のヘイズル・タウンシップでは、大規模なデータセンターキャンパス(約1,300エーカー・15棟)を計画する開発会社が、約4,500世帯に1世帯1万ドル(総額約4,500万ドル)を払うと手紙で約束しました。報道によれば、住民の多くはこれを「買収だ」と受け止め、反発が収まることはありませんでした。住民が挙げたのは、不動産価値の下落、騒音、AI企業や地元行政への不信です。

当サイトで取り上げてきた北九州、昭島、つくばの例でも、住民が求めていたのはお金よりも、説明と、確かめられる数字でした。つくばでは、フルコースの食事つきの説明会がかえって不信を深めています。

【現場視点】「電気を自分でつくる」とは、何を意味するのか

論点1:自前の発電は、すでに米国で広がっている

「自分で電気をつくる」こと自体は、新しい話ではありません。電力網への接続に何年もかかるため、米国ではすでに、敷地の中や隣に発電所を置いて、電力網を通さずに電気を受ける「ビハインド・ザ・メーター」の計画が増えています(Bisnowは、ルイジアナ州のMetaのHyperionキャンパスを例に挙げています)。

使われる発電設備は、主に次の3つです。

設備特徴
ガスタービン・ガスエンジン大きな出力を比較的早く用意できる。ただしタービンは世界的に品薄で、納期が長い
燃料電池ガスから化学反応で電気をつくる。音が静かで、小さな単位で増やせる。米国では「電力網を待つより早い近道」として注目されている
蓄電池自分では発電しないが、発電機の切り替えや、AIの急な電力変動を吸収するクッションになる

日本でも、10月にJERAの千葉の計画(発電所の隣に建てる)や、日立・東京ガスなど4社の電源併設型(敷地内で発電する)が発表されました。技術的には、大統領の言う方向はすでに動いているということです。

論点2:「余った電気を売る」には、結局、電力網が要る

投稿でいちばん引っかかるのは、「余った電気を地域や電力網に売る」という部分です。

データセンター、とくにAI向けのデータセンターは、一日中、一年中、ほぼ同じだけ電気を使い続ける施設です。そのために発電設備を用意すれば、ふだんはほとんど余りません。余らせるには、必要以上に大きな発電設備をつくる必要があり、それはそのままコストになります。

そして、余った電気を地域に届けるには、電力網につなぐしかありません。電力網につなぐには、変電所や送電線の増強と、その順番待ちが必要です。つまり、「電力網を待たずに済むように自前で発電する」はずが、「余りを売るために電力網につなぐ」ことになり、同じ順番待ちの列に戻ってしまうのです。

もっとも、電力網とつながっていることには大きな利点もあります。発電機が止まったときに、電力網から電気を受けられるからです。

論点3:電力網から切り離すと、信頼性は自分で背負う

電力網は、たくさんの発電所が支え合う仕組みです。1つの発電所が止まっても、ほかがすぐに補います。完全に自前の発電だけで動くデータセンターは、それを自分で用意する必要があります。

  • 発電機を何台並べ、何台止まっても大丈夫にするか(N+1、N+2)
  • 点検で止めるときにも足りるか
  • 燃料(ガス)のパイプラインが止まったらどうするか
  • AIの学習で電力が急に上下するとき、発電機が追いつけるか(蓄電池が要る)

米国では、データセンターの電力が一度に大量に抜けて、電力網が揺れた例もあります(3.8GWが1分あまりで消えた日)。自前の発電設備は、この揺れを自分の中で受け止めることになります。

論点4:「義務化」は、そもそも誰が決められるのか

ここで参考になるのが、10月9日の米連邦エネルギー規制委員会(FERC)の判断です。

当サイトでは以前、北米最大の電力網を運営するPJMが「新しい大型データセンターを、電気が足りないときに最初に止める」ルールを申請したことを取り上げました。このルールには、データセンターが自分で新しい発電能力を持ち込む仕組み(BYONC)も含まれていました。

FERCは10月9日、この申請の大部分を退けました。報道や法律事務所の解説によれば、主な理由は、大口の電力消費者(データセンターなど)に直接義務を課すことは、FERC(連邦)の権限の外にある可能性があるというものです。米国では、電気の小売り、つまり誰にどう電気を売るかは、基本的に州が決める仕組みだからです。認められたのは、「50MW以上を大口の需要とする」という定義と、大口需要の登録制度だけでした。

連邦の規制当局自身が「データセンターに直接条件をつけるのは難しい」と判断した、その12日後に、大統領が「義務づけた」と投稿した。法律の上で、この「義務」をどう実現するのかは、今のところ見えていません。

日本と比べると:「電気は自分で」は日米共通の流れ

ここ数週間の日米の動きを並べると、手段は違っても、向かっている方向は同じです。

米国日本
電力網への負担を、データセンター側にRatepayer Protection Pledge(増強費用を自分で負担する誓約。拘束力なし)送配電各社が10月1日から空押さえ対策を開始
電気を自分で用意する大統領が「義務化」を投稿(制度は未整備)。民間ではビハインド・ザ・メーターが広がるJERA千葉、日立・東京ガスなど4社
電気の配り方を公共が決めるFERCが大口需要の登録制度を承認北海道が電力申込みを先に押さえ、公募で配る
地域への見返り大統領が住民への「配当」を提案。ヘイズルでは1世帯1万ドルの提案に反発北海道の公募で地域貢献・共生に30点。つくばはガイドラインと協定

違いがあるとすれば、米国が大統領の言葉や、お金の取引で進めようとしているのに対し、日本は電力会社の約款、自治体の公募やガイドラインという、地味だけれど手続きの積み上げで進んでいることです。

どちらが早いかは分かりません。ただ、ヘイズルの例が示すように、お金で反発を抑えることには限界があります。地域の人たちが求めているのは、日米ともに、何がどれだけ出て、どう守られるのかを確かめられることです。

まとめ

  • トランプ大統領が10月21日、SNSで「新しい大型データセンターは自分で電気をつくることを義務づけた」と投稿。余った電気を地域に売ること、住民に「配当」を払うことも求めた
  • ただし、大統領令などの法的な措置はまだなく、対象の規模、開始時期、担当する役所も不明
  • 背景には、電気代の値上がりと、データセンターへの反発が中間選挙の争点になっていること
  • 現場の目で見ると、自前の発電はすでに広がっている。一方で、「余りを売る」には結局電力網への接続が必要で、電力網から離れれば信頼性は自分で背負うことになる
  • 10月9日、FERCは大口需要に直接義務を課すPJMの仕組みを権限の外の可能性があるとして退けたばかり。「義務化」を法的にどう実現するかは見えない
  • 「電気は自分で」は日米共通の流れ。米国は大統領の言葉とお金で、日本は約款・公募・ガイドラインの積み上げで進んでいる

「電気は自分でつくれ」は、言うのは簡単です。 その電気を、誰が、どれだけの信頼性で、どこまで地域と分け合うのか。中身が決まるのは、これからです。

※アイキャッチ画像はイメージです。実在のデータセンターや発電設備を写したものではありません。


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関連用語: ハイパースケーラー / PPA / SMR / UPS

出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。