訴える相手は「役所」から「事業者」へ — 昭島の巨大データセンター、住民が全国初の差し止め訴訟へ。争点は「電池と重油」
10月20日、住民が「事業者を訴える」と発表した
東京都昭島市。JR昭島駅の北側にあった「昭和の森ゴルフコース」の跡地などで、物流不動産大手の日本GLPが大規模な開発を進めています。
2026年10月20日、この開発に反対する周辺住民らが立川市役所で会見を開き、建設の差し止めを求める裁判を起こすと発表しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訴える側 | 10月18日に結成された「GLP昭島開発差止め訴訟の会」(共同代表に一橋大学名誉教授の寺西俊一氏ら) |
| 訴える相手 | 日本GLP(開発事業者) |
| 裁判所・時期 | 東京地裁立川支部に、年内に提訴する方針 |
| 求めること | データセンター8棟と物流施設3棟の建設の差し止め |
| 根拠 | 生存権・人格権、安全に平穏に暮らす権利、きれいな水や自然を享受する権利など |
住民側は、データセンターの事業者を直接相手にした差し止め訴訟は全国で初めてだとしています。日本GLPは会見当日の時点で「訴状を受け取っていないため、内容へのコメントは控える」としています(オルタナ)。
計画の中身
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画名 | GLP昭島プロジェクト |
| 敷地 | 約58.8ha(昭和の森ゴルフコース跡地など)。昭島市の面積の約3.4%にあたる |
| 建物 | データセンター8棟、物流施設3棟。延べ床面積は合計約121万㎡(建設通信新聞) |
| 工事 | 2026年6月に物流施設の1棟目が着工 |
| 環境影響評価 | 東京都の条例に基づき、2025年2月に評価書を提出済み |
市民団体は、環境影響評価書に記載された年間の消費電力量は約363万MWhで、これは昭島市全体の約6倍にあたると指摘しています。単純に1年の時間数で割ると、平均で約41万kW(410MW)を使い続ける計算です。国内でも最大級の規模といえます。
また、オルタナの試算では、開発前に約52.7haあった緑地は、完成後に約12.1haとなり、約77%減るとされています。物流施設からは1日に約5,800台の車両が出入りする見込みです。
「話し合い」が1年半で打ち切られた
住民はいきなり裁判を選んだわけではありません。
- 2025年2月、住民607人が、東京都の公害審査会に公害紛争の調停を申し立てた
- 約1年半、6回にわたって話し合いが行われた
- 2026年8月17日、合意の見込みがないとして調停は打ち切られた
住民側は「説明や情報の開示が不十分だった」としています。一方、日本GLPは「住民説明会などで情報発信を行ってきた」としています(TOKYO MX)。
これまでのデータセンター訴訟と、何が違うのか
当サイトでは、印西・日野・白井の訴訟や、東京タワー近くのNEXTDC TK1をめぐる訴訟を取り上げてきました。これらはいずれも、建築確認を出した役所などを相手に、その処分の取り消しを求める裁判(行政訴訟)です。争点は「その建物は法律上、倉庫なのか事務所なのか工場なのか」といった、手続きと用途の正しさでした。
昭島の訴訟は違います。
| これまでの訴訟 | 昭島の訴訟 | |
|---|---|---|
| 相手 | 役所(区や建築確認をした機関) | 事業者(日本GLP) |
| 求めること | 建築確認の取り消し | 建設そのものの差し止め |
| 問うこと | 手続き・用途の分類は正しいか | この施設が、住民の命や健康を危険にさらすか |
つまり、昭島の裁判では、データセンターという施設の「危なさ」そのものが正面から問われることになります。そして住民がいちばん心配しているのが、リチウムイオン電池と重油による大規模な火災・爆発です。
【現場視点】データセンターの「電池と燃料」を、正面から考える
論点1:データセンターは、なぜ電池と燃料を大量に持つのか
データセンターは「停電しても止まらない」ことを売りにした施設です。そのために、2段構えの備えを持っています。
| 備え | 役目 | 中身 |
|---|---|---|
| UPS(無停電電源装置)の電池 | 停電した瞬間から、発電機が動き出すまでの数十秒〜数分をつなぐ | 最近はリチウムイオン電池が主流。鉛蓄電池より小さく軽く、長持ちする |
| 非常用発電機と燃料 | 停電が長引いたとき、何時間〜何日も電気をつくる | 燃料は重油や軽油。敷地内のタンクに貯めておく |
つまり、電池と燃料は、データセンターにとって「おまけ」ではなく、なくてはならない設備です。住民の心配は、施設の性格からくる、まっとうな問いだといえます。
論点2:量の感覚をつかむ
日本GLPの計画で、電池と燃料がどれだけの量になるかは、今回確認できた資料の範囲では分かりませんでした。そこで、あくまで目安として、規模の感覚をつかんでみます。
燃料は、停電が長引いても動き続けられるよう、数十時間から数日分を持つ設計が多く見られます。仮に、平均の約41万kWを発電機だけで48時間まかなうとすると、ディーゼル発電機の一般的な燃費(1kWhあたり約0.25L)から、燃料はおよそ5,000キロリットル、ドラム缶にして2万本以上になります。
これは単純な計算で、実際の設計(何時間分持つか、発電機がどこまでの負荷を受け持つか)で大きく変わります。それでも、8棟分の大型データセンターが持つ燃料は、ふつうの工場とは桁が違うことは、たしかです。
論点3:どうやって守られているのか
重油や軽油は、消防法の「危険物」です。量に応じて、タンクの置き方、周りに空けておく距離、漏れたときに受け止める堤(防油堤)、消火設備などが細かく決められています。燃料タンクを地下に埋める設計も多く見られます。
リチウムイオン電池は、壊れたり熱を持ったりすると、内部で熱がどんどん高まる「熱暴走」を起こすことがあります。いったん燃えると水で消しにくく、消えたように見えても再び燃えることがあるのが特徴です。そのため、現場では次のような対策をとります。
- 電池を**燃え広がらない部屋(防火区画)**に分けて置く
- 電池の温度や電圧を1本ずつ見張る仕組み(BMS)で、異常を早く見つける
- 電池室に専用の消火設備や換気・排煙の設備を置く
どれも、正しく設計し、正しく運用すれば、リスクを十分に小さくできる対策です。問題は、住民の側から、それが本当にそうなっているのかが見えないことです。
論点4:裁判で問われるのは「具体的な危険」
日経ビジネスによれば、環境問題に詳しい弁護士は「抽象的に危険だというだけでは、裁判所は建設を止めない」とみています。差し止めが認められるには、どの施設の、何が、どれだけあって、どんな事故が起きると、周りの住民にどんな被害が及ぶのかを、具体的に示す必要があるということです。
ここで、住民側の「説明や情報の開示が不十分」という訴えが重い意味を持ちます。燃料が何キロリットルで、タンクがどこにあり、住宅や学校まで何メートルあるのか。電池が何kWhで、どんな部屋に置かれるのか。 これらが分からなければ、住民は具体的な危険を示すことができず、事業者も安全だと具体的に示すことができません。
裁判になれば、こうした数字が法廷の場で明らかになっていく可能性があります。それは、住民にとっても事業者にとっても、本来は裁判の前に共有されているべき情報です。
論点5:「排熱は上空に拡散する」は、半分正しい
日本GLPは、排熱について「上空に拡散するため、周辺にほとんど影響しない」としています。
データセンターが使った電気は、ほぼすべてが最後は熱になります。年間363万MWhの電気を使えば、それに見合った熱が、冷却塔や室外機から外に出ていきます。熱を上に向けて吹き出し、高いところで広げることで、地上の気温への影響を小さくすることはできます。その意味で、事業者の説明は間違いではありません。
ただ、「どんな条件で」ほとんど影響しないのかが大切です。北九州の記事でも書いたとおり、熱がたまりやすいのは風が弱い、蒸し暑い夏の夜です。予測の条件と結果を、住民が確かめられる形で示すことが、ここでも出発点になります。
データセンター業界にとっての意味
昭島の訴訟が住民側の勝訴で終わるかどうかは、分かりません。差し止めのハードルは高いとみられています。
それでも、業界にとって意味は小さくありません。
- 争点が「手続き」から「施設の危険そのもの」に移る。 電池・燃料・排熱について、事業者が数字で説明できるかが問われる
- 裁判は長引けば、建設計画そのものの不確実さになる。 8棟の計画を持つ事業者にとって、数年単位の訴訟は事業上の大きなリスク
- ほかの地域に広がる可能性がある。 日経ビジネスは、同じような訴訟が全国に広がる可能性を指摘している
業界団体の日本データセンター協会(JDCC)は、2026年5月に「データセンター地域共生ガイドライン」を出しました。北海道は、データセンター用地の公募で地域共生に配点を設けています。北九州では住民・市・事業者の協議会が11月に始まります。
説明会、調停、協議会、そして裁判。 地域とデータセンターの話し合いの場は、少しずつ形を変えながら広がっています。どの場でも共通して求められているのは、「安全です」という言葉ではなく、安全だと確かめられる数字です。
まとめ
- 東京都昭島市の「GLP昭島プロジェクト」(データセンター8棟・物流施設3棟、約58.8ha)をめぐり、住民が10月20日、日本GLPを相手に建設の差し止めを求める訴訟を年内に起こすと発表
- これまでのデータセンター訴訟は役所を相手にした建築確認の取り消しだった。事業者を直接訴えるのは全国初とされ、施設の危険そのものが問われる
- 2025年2月に住民607人が申し立てた公害調停は、1年半・6回の話し合いを経て2026年8月に打ち切り
- 住民の最大の懸念はリチウムイオン電池と重油の火災。データセンターは停電に備えて電池と燃料を大量に持つ施設で、規模によっては燃料が数千キロリットルに及ぶこともありうる
- 対策はあるが、住民からは見えない。裁判では具体的な危険が問われるため、燃料の量・タンクの位置・電池の容量などの情報開示が鍵になる
データセンターは「止まらないこと」のために、電池と燃料を抱えています。その備えが、隣に住む人にとってどう見えるのか。 昭島の裁判は、業界全体にその問いを突きつけています。
※アイキャッチ画像はイメージです。GLP昭島プロジェクトの実際の施設や設備を写したものではありません。
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関連用語: UPS / BCP / ハイパースケーラー / Tier認証
出典
- オルタナ: 東京郊外に巨大データセンター、昭島市民が全国初の差し止め提訴へ(2026年10月21日)
- 日経ビジネス: データセンター訴訟拡大の足音 昭島住民がGLP提訴へ、事業者相手は全国初
- TOKYO MX(Yahoo!ニュース転載): “全国初”住民らが事業者を提訴へ 東京・昭島市で開発計画のデータセンター差し止め求め(2026年10月21日)
- 東京都環境局: GLP昭島プロジェクト 環境影響評価図書の公表
- 建設通信新聞: 【東京・GLP昭島】総延べ121万㎡、物流3棟とDC8棟
- 昭和の森・「考える会」: まさにケタ違い!昭島市のエネルギー計画を根底から覆す超巨大データセンター問題の学習会
この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。