「とりあえず押さえる」はもう通らない — 10月1日、データセンターの送電網予約ルールが変わった

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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10月1日、送電網の「予約ルール」が変わった

2026年10月1日、東京電力パワーグリッドをはじめとする送配電各社が、送電網の利用条件を定めた「託送供給等約款」を変更しました。6月24日に東電PG・関西電力送配電・東北電力ネットワークなどが変更を申請し、7月22日に経済産業大臣の認可を受けたものです。

データセンターなど、電気を使う側(需要側)に関わる変更は2つです。

変更点内容
① 申込み内容の変更で、申込みそのものが取り消される供給承諾(契約成立)の前に、需要家の都合で申込み内容を変えた場合は、その契約申込みを取り消す。ただし技術検討に影響しない「軽微な変更」は除く
② 工事費負担金は3カ月以内に払う供給承諾から工事費負担金の入金までの期限を3カ月以内とし、期限を超えたら契約申込みを取り消す

一見すると、事務手続きの細かな変更です。

しかし、この2つの変更が狙っているのは、データセンター業界で数年前から問題になっていた、ある行為です。

「空押さえ」です。

「空押さえ」とは何か

送電網の容量は、先着順で割り当てられます。

大きな電力を使う施設を建てたいとき、事業者は送配電会社に「この場所に、この時期から、これだけの電力が欲しい」と申し込みます。送配電会社はそれに合わせて変電所や送電線を増強し、その容量を申込者のために確保します。

空押さえとは、実際に使う見込みが薄いまま、この「席」だけを確保しておくことです。

レストランの予約にたとえると分かりやすいかもしれません。10人で予約して、当日来たのは3人。残りの7席は、予約が取り消されない限り空いたままです。そして店の外には、席が空くのを待つ客が行列を作っている。

国の審議会で示された「実態」

経済産業省の次世代電力系統ワーキンググループは、2026年4月の会合で、実際の事例をグラフで示しました。

  • ある需要家は、2023年に最終的な契約電力に到達する予定だった。しかし2025年10月時点でも到達せず、計画を後ろ倒ししている。それでも系統は、最終的な容量で確保されたまま
  • 別の需要家は、2025年10月時点で当初計画の途中段階にすら届いていない。にもかかわらず、最終規模を上方修正していた

使っていないのに、予約は増えている。 これが、資料から読み取れる実態です。

そして、行列はさらに長くなる

経産省の資料は、ここから起きる悪循環をこう説明しています。

  1. 空押さえで容量が埋まる
  2. 後から来た需要家のために、追加の設備増強が必要になる
  3. 工事の順番待ちで、系統接続までの期間が延びる
  4. 順番待ちを避けようと、まだ計画が固まっていない段階で、とにかく早く申し込む需要家が増える
  5. その申込みがまた容量を埋め、さらに期間が延びる

空押さえが、次の空押さえを生む。 報道によれば、電力網の増強待ちは最長で約10年に達しています。当サイトがAIデータセンターから先に停電させるで書いた「系統接続に数年から10年」という問題の、日本における原因の一つがここにあります。

抜け穴は「段階別契約」にあった

空押さえがなぜ可能だったのか。その仕組みを理解するには、「段階別契約」を知る必要があります。

データセンターは、一度に全館が稼働するわけではありません。棟ごと、フロアごとに、順番に機器が入っていきます。そこで電力契約も、段階的に引き上げる形で結びます。

時期契約電力
2028年100MW(第1段階)
2030年200MW(第2段階)
2032年300MW(最終段階)

送配電会社は、最終の300MWに対応した設備を、最初から計画して整備します。段階ごとに工事をしていたら、非効率なうえに間に合わないからです。

問題は、途中段階を減らしても、容量が開放されないことでした。

たとえば2028年の100MWを50MWに減らしても、最終の300MWが変わらない限り、送電網には300MW分の席が確保されたままです。現行ルールでは、最終の契約電力そのものを下げない限り、容量は戻ってきませんでした。

途中は計画どおりに進んでいない。でも、最終目標だけは下ろさない。 こうすれば、席を手放さずに済む。これが抜け穴でした。

本丸は2027年度に来る

10月1日の変更は、手続きの入口を締めたものです。段階別契約の抜け穴そのものをふさぐルールは、まだ議論の途中にあります。

2026年6月の次世代電力系統ワーキンググループで、資源エネルギー庁が示した方向性はこうです。

項目示された方向性
対象最終契約電力30MW以上の特別高圧需要家。2020年度以降に新設された特別高圧需要家の上位約1割にあたる
容量開放申込みが集中するエリアで、途中段階の契約電力が計画に届かない状態が1年を超えたら、その差分を接続待ちの案件に開放する
段階の上限最初の供給開始から最終規模までは、原則6年
費用精算最終契約電力の供給開始を1年を超えて延期した場合、全エリアで費用精算の対象とする
既存契約すでに契約済みの需要家にも適用する予定
開始時期2027年度初頭の運用開始を目指す

(※細部はワーキンググループで議論中であり、今後変わる可能性があります)

注目すべきは、開放された容量の権利は、基本的に失われるとされている点です。一度手放した席は、取り戻せません。

30MWは、現代のデータセンターとしては中規模です。 ハイパースケーラー向けの大型案件はほぼ確実に、地方のAI DCの多くも、この線を超えます。「規制の対象はごく一部の大手」とは考えないほうがよいでしょう。

【現場視点】データセンター開発の何が変わるのか

ここからが、この記事で最も伝えたい部分です。

論点1:データセンターの「拡張余力」は、悪なのか

まず、データセンター業界の言い分を正確に紹介しておきます。

4月のワーキンググループでは、日本データセンター協会が、データセンターが他の施設と電気の使い方が違う理由を説明しました。

  • 建てる会社と、使う会社が違う — DC事業者が建物と設備を用意し、中に入るのはハイパースケーラーなどの顧客
  • IT機器は3〜5年で入れ替わる — 技術の進歩が速く、次に何が来るかを読み切れない
  • 常に拡張の余力を持っておきたい — AIのように、新しい技術が突然大量の電力を必要とする
  • 近くの2〜3拠点で同時に増設する — データをコピーして信頼性を保つため、増設のたびに電力も2〜3倍で増える

会合では委員から、「誠実に事業を行っている事業者であっても、ある種空押さえのような事象が発生する可能性がある点について理解した」という発言もありました。

現場の感覚としても、これは正しい指摘です。

データセンターの典型的な契約は、「1フロアあたり10MWの電力供給を保証する」という形です。実際にどれだけの機器が入るかは、顧客次第。DC事業者は、顧客が決まる前に建物を建て、電力を確保しておかなければ、そもそも顧客を呼べません。

顧客が入るまで電気が使われないのは、空押さえではなく、この商売の構造そのものです。

論点2:それでも、ルールが厳しくなる理由がある

それでもルールが厳しくなるのには、理由があります。

空押さえのコストは、空押さえをした本人ではなく、他の全員が払っているからです。

経産省の資料は、もう一つの問題を指摘しています。送配電会社は、最終の契約電力に合わせて設備を増強します。その費用の多くは、エリアの全需要家が払う託送料金で回収されます。需要家が契約電力を予定どおりに引き上げなければ、その分が回収漏れになり、次の期間の託送料金の単価が上がる。

つまり、空押さえは、家庭の電気代にも跳ね返ります。 当サイトがあなたの電気代は上がるのか?で扱った「誰が負担するのか」という問いの、もう一つの具体例です。

拡張余力は、DC事業者にとっては合理的な保険です。しかし、その保険料を他人に払わせてはいけない。 今回のルールは、その線を引こうとしています。

論点3:「まず申し込んでから考える」が通用しなくなる

実務への影響として、最も大きいのはここだと考えています。

これまでの大型DC開発では、用地の検討と並行して、とにかく早く系統の申込みを入れるのが定石でした。順番待ちが長い以上、申込みが遅れることは、そのまま稼働の遅れを意味したからです。

しかし10月1日からは、申込み後に受電点や契約電力を変えると、申込みが取り消されます。 経産省の資料が「契約申込時の必要情報」として挙げているのは、次のようなものです。

  • 接続供給開始の希望日と、契約電力
  • 受電点(敷地のどこで受電するか)と、受電設備の位置を示す平面図
  • 負荷設備と受電設備の一覧(容量を含む)
  • 単線結線図(受電設備の構成を示す図面)
  • 予備線の要否

単線結線図まで固まっているということは、電気設備の基本設計がほぼ終わっているということです。 用地を確保し、受電の構成を決め、設計者に図面を描かせてから申し込む。その分の時間と費用を、申込みの前に投じる必要があります。

「軽微な変更」は認められるとされていますが、その範囲はまだ具体例が示されていません。設計の初期段階で申込みを入れていた事業者ほど、影響を受けます。

論点4:3カ月で、数十億円の判断をする

工事費負担金の3カ月ルールも、見た目以上に重いものです。

大規模な特別高圧の受電では、送配電会社側の工事(変電所や送電線の増強)の一部を、需要家が工事費負担金として負担します。案件によっては数十億円規模になることもあります。

供給承諾が出てから3カ月以内にこれを払えなければ、申込みは取り消され、また行列の最後尾から並び直しです。

つまり、資金調達のめどを、供給承諾の前に立てておく必要があります。DCの開発資金は、REITや海外ファンド、事業会社の連合など、複数の出し手が絡むことが珍しくありません。投資委員会の承認に数カ月かかる組織にとって、3カ月は短い。

論点5:誰が得をして、誰が損をするのか

ルールの影響は、事業者のタイプによって大きく分かれると考えています。

事業者影響
ハイパースケーラーの自社開発自社で使う前提のため、計画の確度が高い。相対的に有利
顧客が決まっているDC開発(ビルド・トゥ・スーツ)入居者と規模が先に決まっているため、影響は小さい
顧客未定のまま建てるDC開発(スペック型)計画どおりに電力を引き上げられないリスクを、自らが負うことになる
「電気付きの土地」を転売する目的の申込み使う予定のない容量を抱えたままでは、取り消しや精算の対象になる。最も強く締め出される
後から来た事業者開放された容量を使える可能性。最も恩恵を受ける
一般の電気の利用者託送料金の回収漏れが減る。間接的に恩恵

投機的な開発が減り、確度の高い開発が残る。 制度の狙いとしては健全です。

ただし、日本のDC市場では、顧客未定のまま先行して建てる開発が、需要の急増に供給を追いつかせる役割も担ってきました。空室率1%なのに置く場所がないという状況で、先行開発がブレーキを踏めば、短期的には供給不足がさらに深まる可能性もあります。

「行列に並ばない」方法の価値が上がる

最後に、前回の記事とのつながりを書いておきます。

当サイトは10月3日、JERAの千葉火力発電所の隣に建つ40万kWのAIデータセンターを取り上げました。発電所から系統を通さず直接受電する、「行列に並ばない」方式です。

系統の行列のルールが厳しくなるほど、行列の外にいる方式の価値は上がります。

10月1日の約款変更と、同じ日に発表されたJERAの覚書。どちらも、「送電網の席の取り合い」という同じ問題への答えです。一方は行列のルールを正し、もう一方は行列の外に出る。日本のデータセンター開発は、電気をどう確保するかという一点をめぐって、大きく組み替わり始めています。

まとめ

  • 2026年10月1日、東電PGなど送配電各社が託送供給等約款を変更。 需要側では、①供給承諾前に申込み内容を変えたら申込み取り消し、②工事費負担金は供給承諾から3カ月以内に入金、の2点
  • 狙いは「空押さえ」の締め出し。使う見込みが薄いまま送電網の容量を確保する行為が、接続待ちの長期化と託送料金の上昇を招いていた
  • 抜け穴は段階別契約。途中段階を減らしても、最終の契約電力を下げなければ容量は開放されなかった
  • 本丸は2027年度初頭。最終契約電力30MW以上を対象に、容量開放と費用精算を導入する方向。既存契約にも適用予定
  • 現場では、申込み前に設計と資金のめどを固める必要がある。顧客未定の先行開発と土地転売目的の申込みが最も影響を受ける
  • 系統のルールが厳しくなるほど、発電所直結や跡地活用など「行列に並ばない」方式の価値が上がる

「とりあえず押さえておく」が、もう通らない。 送電網の席は、使う人のためのものになろうとしています。


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出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。