つくば市が独自のデータセンター指針 — 「誰でも来られる説明会」と再エネ100%。でも1GW計画の1棟目は対象外

(更新: 2026年10月24日) ✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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つくば市が「データセンターのルール」を自らつくった

2026年10月22日、茨城県つくば市が、「データセンターの建設及び運営に関する地域共生ガイドライン」を策定したと発表しました(21日付)。東京都、江東区、日本データセンター協会(JDCC)の指針を参考にした、市独自のルールです。

念頭にあるのは、市内の大穂(おおほ)地区で進む、国内最大級のデータセンター計画です。

背景:1GW計画と「フルコースの説明会」

項目内容
事業者グッドマンジャパン(豪州の物流不動産大手グッドマン・グループの日本法人)
場所つくば市大穂。約45〜46ha。2022年に市から取得した元公有地
全体計画受電容量1000MW(1GW)のデータセンター群
1棟目50MW、地上4階・高さ38m。2026年2月に着工、2028年1月末に完成予定

問題になったのは、住民への説明の進め方です。NEWSつくばの報道をもとに経緯をまとめます。

時期出来事
2026年2月1棟目が着工
6月29日住民団体「データセンターから市民を守る会」が、説明会の開催を求める約600人分の署名つきの要望書を送る。返答はなかったとされる
8月17〜19日着工から約半年後、初めての住民説明会。近くのレストランなどで、フルコースの食事と手土産つき。参加には事前に配られた日付指定の案内状が必要で、案内状のない住民や市議、報道機関は入場を断られた
10月6日市議会が、市主催の説明会を求める住民の請願を「趣旨採択」にとどめる一方、事業者に説明会の再開催を求める決議を全会一致で可決
10月8日住民約20人が、建設現場の前で初めての抗議行動
10月13日五十嵐立青市長が、事業者に改めて説明会の開催を求めると表明
10月22日市が地域共生ガイドラインを発表

8月の説明会で、事業者側は「排熱は水冷方式で、最上階から水蒸気として大気に出す」「つくばの過去20年の気象を検証し、結果を市に出す」と説明し、3年間説明会を開かなかったことを謝罪したと報じられています。それでも、参加した住民からは「不信感が増しただけ」という声が上がりました。

ガイドラインの中身

NEWSつくばの報道によると、ガイドラインが事業者に求めている主な項目は次のとおりです。

項目求めていること
住民説明敷地の境界からおおむね100m以内の住民・土地所有者には住民説明会。それより外側の住民には、誰でも自由な時間に来て、資料を見ながら1対1で質問できる「オープンハウス型説明会」を1週間以上
排熱排気設備の位置や出し方を工夫し、周辺への影響を抑える
騒音・振動法令の基準を守る
発電機の排煙非常用発電機は大気汚染防止法の排出基準の対象外だが、その基準を守る
排水基準を守り、薬品などが川や地下水に漏れない対策をとる
電力原則として再生可能エネルギー100%。市内で発電されたエネルギーを優先的に使う
研究機関との連携環境への影響の評価や監視に、研究機関の協力を得る

市は今後、このガイドラインをもとに事業者と協定を結ぶことを目指すとしています。

一方で、課題もはっきりしています。

  • 法的な強制力はない(あくまで「指針」)
  • 建設中の1棟目は対象外(今後新しく建てるデータセンターが対象)
  • 影響について数値の目標がなく、「影響を最小限にとどめる」「法令を守る」という表現にとどまる
  • 策定にあたって、市は周辺住民からの聞き取りをしていない
  • 市長は、協定に罰則の基準を入れることには反対の考えを示している

【現場視点】ガイドラインの「よいところ」と「足りないところ」

よいところ1:「誰でも来られる説明会」は、8月への正面からの答え

8月の説明会が不信を招いた理由は、食事や手土産そのものよりも、誰が呼ばれ、誰が入れないのかが分からなかったことにあると考えます。

オープンハウス型説明会は、日時を決めず、誰でも、何度でも来て、担当者に直接質問できる形式です。招待状も要りません。8月の「招待制の説明会」への、いちばん直接的な答えになっています。

よいところ2:発電機の排煙に「法律にない基準」を当てはめた

データセンターの非常用発電機は、発電機の記事でも書いたとおり、大気汚染防止法の排出基準の対象外です。月に1度程度の点検運転で黒い煙が出ても、法律上は問題になりません。

つくば市のガイドラインは、ここに「対象外でも基準は守る」という一線を引きました。地方の指針が、国の法律の抜け穴を自分で埋めにいった例として、意味があります。

足りないところ1:「100m」は、データセンターの影響が届く範囲として狭い

住民説明会の対象は、敷地の境界からおおむね100m以内です。市は、開発行為の手引きと江東区のガイドラインを根拠に挙げています。

ただ、江東区のような都心の1棟のデータセンターと、つくばの1GW・約46haのデータセンター群では、規模が大きく違います。

  • 発電機の点検運転の音や煙は、風向きによって数百m先まで届くことがある
  • 冷却塔から出る水蒸気(白い煙のように見える)は、遠くからも見える
  • 工事車両や、完成後の燃料補給のタンクローリーは、通学路や生活道路を通る

「100m以内は説明会、その外はオープンハウス」という分け方そのものは悪くありません。ただ、施設の規模に応じて範囲を広げる考え方があってもよいはずです。

足りないところ2:数字がない。だから、協定に何を書くかがすべて

ガイドラインには、騒音・排熱・排煙について具体的な数値の目標がありません。法的な強制力もありません。だからこそ、市が目指す「協定」に何を書くかが、実際の効き目を決めます。

北九州の記事で挙げた論点が、そのまま当てはまります。

協定に書きたいこと例
騒音住宅の前など決めた地点で、昼と夜の上限値。完成後に測って公開
発電機点検運転の時間帯(夜間や通学時間を避ける)、事前の告知、排ガス対策
排熱・水蒸気無風に近い夏の夜の条件での予測と、完成後の実測
水冷却に使う水の量と取水先。地下水を使うかどうか
燃料燃料の量とタンクの位置、補給車の通る時間と道
情報公開上の数字を、定期的に住民が見られる形で公開する

市長は協定に罰則を入れることに反対しています。罰則がなくても、「何を、どの数字で、いつ公開するか」が書かれていれば、住民は約束が守られているかを自分で確かめられます。

足りないところ3:水の話が、まだ見えない

8月の説明会で、事業者は「排熱は水冷方式で、最上階から水蒸気として大気に出す」と説明しています。これは、冷却塔を使い、水を蒸発させて熱を捨てる方式だと考えられます。冷却塔は効率がよい一方で、蒸発した分の水を補い続ける必要があります。

10月8日の抗議では、住民が「この地域は井戸水を使っており、水が心配だ」と訴えています。1GWまで広がる計画で、冷却にどれだけの水を、どこから取るのか。ガイドラインの「排水」の項目だけでは、この不安に答えられません。協定では、取水の量と取水先を明らかにすることが欠かせません。

足りないところ4:いちばん大きいのは「1棟目が対象外」

1GW計画のうち、すでに着工している1棟目(50MW)は、ガイドラインの対象外です。住民の不信が生まれたのは、まさにこの1棟目の進め方でした。

ただ、計画全体から見れば、1棟目は1000MWのうちの50MWにすぎません。残りの棟は、これから順番に建てられていきます。1棟目を協定の外に置いたままにすれば、最初の1棟で失った信頼を取り戻す機会も逃してしまいます。事業者が自ら、1棟目にもガイドラインの内容を当てはめると表明できるかどうかが、試金石になると考えます。

地域とデータセンター、出そろった「6つの道具」

ここ数週間、当サイトでは各地で起きている「地域とデータセンターの付き合い方」を取り上げてきました。つくばのガイドラインを加えると、道具がほぼ出そろいます。

道具場所誰が使う強み弱み
地区計画印西市法的な強制力。建てる前に場所を仕分けられる手続きに時間がかかる。すでにある計画には効きにくい
公募の配点北海道道電気を配る側が、地域共生を条件にできる公共が電力や土地を押さえている場合に限られる
都の認証東京都都補助金と組み合わせ、よいDCを後押しできる認証を求めない事業者には効かない
市のガイドライン+協定つくば市地域の事情に合わせて細かく決められる強制力がない。協定の中身しだい
協議会北九州市・住民・事業者建設が進んでいても、対話で対策を決められる決まったことの実行を担保しにくい
裁判(差し止め)昭島住民最後の手段。法廷で情報が明らかになる勝つのは難しく、長い時間がかかる。対立が深まる

表を上から下に見ると、「建てる前に使える道具」から「建ててからの道具」へ、そして「ルール」から「対立」へと並んでいることが分かります。

つくばは、まさにその中間にいます。1棟目はすでに建ち始め、住民との関係はこじれかけています。ガイドラインと協定が「対立」に進む前の歯止めとして機能するか。それとも、1棟目を対象外にしたことで、北九州の協議会や昭島の裁判の方向へ進んでしまうのか。

【追記】10月23日、事業者が11〜12月に説明会を開くと回答

記事の公開と同じ10月23日、五十嵐市長がグッドマンジャパンの副社長と市役所で面会し、周辺住民に限らず、市民や市議が広く参加できる説明会の開催などを求める要請書を手渡しました。

報道によると、グッドマン側はその場で回答書を提出し、次のことを示しました。

項目回答の内容
説明会誰でも来られるオープンハウス型説明会などを、11〜12月に開く
見学会同社が千葉県印西市で動かしているデータセンターの見学会を12月に行う

ガイドラインが求めた「誰でも来られる説明会」を、事業者が1棟目の計画についても開くことになった形です。本文で「試金石」とした1棟目の扱いに、一歩動きがありました。説明会で、騒音・排熱・水・燃料についてどこまで具体的な数字が示されるかに注目です。

まとめ

  • つくば市が10月22日、データセンターの建設と運営に関する独自の「地域共生ガイドライン」を発表。豪グッドマンの1GW計画(大穂、1棟目50MWは2月に着工)が念頭にある
  • きっかけは、着工から半年後に開かれたフルコースの食事付き・招待制の説明会。住民の不信が深まり、10月には市議会の決議や現場前の抗議に発展した
  • ガイドラインは、誰でも来られるオープンハウス型説明会、発電機にも大気汚染防止法の基準を当てはめる、原則として再エネ100%を求めるなど、踏み込んだ内容を含む
  • 一方で、法的な強制力がなく、数値の目標もなく、建設中の1棟目は対象外。説明会の範囲「100m」も、1GW級の施設には狭い
  • 実際の効き目は、これから結ぶ協定に、騒音・発電機・排熱・水・燃料の「数字」と「公開の約束」を書けるかにかかっている

「説明します」を、「確かめられます」へ。つくばのガイドラインが、その一歩になるかどうかは、協定の中身と、1棟目をどう扱うかで決まります。

※アイキャッチ画像はイメージです。つくば市大穂の実際の施設や現場を写したものではありません。


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出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。