液冷も800Vも要らないAI推論 — 富士通「MONAKA」が示す、もう一つの道とその対価

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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富士通が、国産CPUのサーバーを売り出す

富士通は2026年9月14日、次世代CPU 「FUJITSU-MONAKA」 と、同CPUを搭載した 「Fujitsu MONAKA Server」 を2026年11月から販売すると発表しました。スーパーコンピュータ「富岳」のCPU開発の系譜にある、AI推論向けのプロセッサです。

項目内容
アーキテクチャArmv9ベース・144コア
製造プロセス演算コアに2nm、キャッシュとI/Oに5nm。2つのダイを3次元積層
性能最大動作周波数3.8GHz、メモリ転送速度8,800MT/s
用途AI推論・AIエージェント向け(学習向けではない)
冷却1Uサーバーは空冷なら周囲温度40℃まで、水冷なら水温45℃まで、専用の冷却設備なしで動作。サーバー冷却の電力を最大80%削減
サーバー構成2U空冷型/1Uスケーラブル(空冷・水冷)/2Uマルチノード(水冷) の3系列。1UはCDI/CXL対応
サーバー製造富士通ITプロダクツ笠島工場(石川県)
販売地域サーバーは日本と欧州、CPU単体はクラウド・DC事業者やサーバーベンダー向けに世界で

当サイトはこの1週間、逆の話ばかり書いてきた

少し振り返らせてください。

当サイトはここ数本、**AIデータセンターの「高密度路線」**を追いかけてきました。

どれも「AIはGPUに密集し、密集は液冷と大電力を要する」という前提の上に立っています。

MONAKAは、その前提の外側から出てきた答えです。GPUではなくCPUで推論し、空冷のまま、既存のデータセンターに入る。

【現場視点】「空冷で周囲40℃」が、なぜ効くのか

この仕様の意味を、現場の感覚で説明します。

日本のDCは、もっと低い温度で設計されている

一般的なデータセンターのサーバー室は、吸気温度をおおむね20℃台に保つように空調が設計されています。そのためにチラーで冷水を作り、空調機を回し続けています。

業界の温度区分では、サーバーが許容する吸気温度に段階があり、周囲40℃まで許容するのは上位のクラスです。「40℃まで動く」ということは、空調の設定温度を大幅に上げられることを意味します。

  • 設定温度を上げれば、チラーの稼働が減る
  • 外気が40℃を超える日はほとんどないので、外気や冷却塔だけで賄える時間が大幅に伸びる(フリークーリングの領域が広がる)
  • 冷却にかかる電力が減り、PUEが改善する

「冷却電力を最大80%削減」は、この設定温度の引き上げから来ていると読めます。

余っている「空冷の区画」に、使い道ができる

当サイトは以前、JLLの「空室率1%なのに、置く場所がない」という分析を扱いました。首都圏のDCは満室に近いのに、高密度のAIサーバーを置けない空冷前提の区画は余っているという話です。

MONAKAはまさに、その「使えない空きスペース」に入るタイプの機器です。液冷の配管工事も、受電容量の大幅な増強もなしに、AI推論の能力を足せる。既存DCの資産価値を、改修なしで引き上げる選択肢になりえます。

【重要】ただし、空冷は「性能と引き換え」である

ここは強調しておきます。MONAKAは「液冷が要らない」CPUではありません。「液冷を選ばない代わりに、性能を差し出せる」CPUです。

1Uモデルの常用速度(ベース周波数)は、冷却方式で変わります。

冷却方式ベース周波数
空冷2.1GHz
水冷2.9GHz

水冷のほうが約38%高い。 裏を返せば、空冷では常用性能が水冷の約7割です。最大動作周波数はどちらも3.8GHzですが、日常的に出せる速度には明確な差があります。

これは物理的に当然のことです。空気は水より熱を運ぶ力がはるかに弱く、同じ熱を捨てるには発熱そのものを抑えるしかない。空冷モデルは、既存の空冷設備で成立する発熱に収まるよう、あえて速度を落としているわけです。

そしてサーバーの3系列も、この設計思想をそのまま表しています。

  • 2U空冷型 — 既存DCにそのまま入れる
  • 1Uスケーラブル — 空冷でも水冷でも。設備に合わせて選ぶ
  • 2Uマルチノード(水冷) — 密度と性能を取りにいく

富士通は「どちらか」を選ばせるのではなく、設備の制約に応じて性能を段階的に選べるようにした。 これが正確な読み方だと考えます。

GPUとCPUで、推論を分担する時代

では、なぜCPUで推論なのか。

学習と推論は、求められるものが違う

  • 学習は、巨大なモデルを大量のデータで一気に鍛える。GPUを密結合させた大規模クラスタが必要
  • 推論は、完成したモデルを使って応答を返す。リクエストは細かく、同時に大量に、しかも24時間続く

推論のすべてが、最先端のGPUを必要とするわけではありません。中小規模のモデル、AIエージェントが呼び出す多数の軽い処理、応答の遅延より運用コストや消費電力が効く用途——こうした領域では、CPUで処理する選択に合理性が出てきます。

電力の桁が違う

米Hot Chips 2026では、MONAKAについてCPU単体で350Wと500Wのモデルが2027年に投入されることが示されています。

仮に2ソケットのサーバーでも、CPU部分はおおよそ1kW前後です。1ラックで100kWを超えるGPUラックとは、桁がひとつ以上違います。(サーバー全体やラックあたりの消費電力は構成によって大きく変わり、現時点で公表されていません)

GPUは学習と重い推論に集中させ、軽い推論はCPUに逃がす。 この分担が進めば、受電点の奪い合いに加わらずに済むAI処理が増えます。これは電力に制約のある日本にとって、見過ごせない意味を持ちます。

「国産」の中身を、正確に

「国産CPU」という言葉は、正確に分解しておく必要があります。

工程担い手
CPUの設計富士通(Armv9アーキテクチャをベースに自社設計)
半導体ダイの製造TSMC(台湾) — 2nm(N2P)と5nm(N5)
サーバーの設計・製造富士通。石川県の富士通ITプロダクツ笠島工場
開発支援NEDOのグリーンデータセンター関連の事業

つまり「国産」とは、設計とサーバー製造が国内であり、最先端のシリコンは台湾で作られている、という意味です。 これは欠点というより、2nmを量産できる工場が現時点で世界に限られているという現実の反映です。

その先の布石もあります。富士通は国内ファウンドリのRapidusを供給網の多様化の鍵と位置づけており、報道によればRapidusで製造する1.4nmのAI向けチップ(NPU)をMONAKAと組み合わせ、次世代スパコン「富岳NEXT」などに搭載する構想も示されています。

ソブリンAIとは「全部を国内で作る」ことではない

富士通はこのサーバーをソブリンAI基盤と位置づけています。

ここで言う「ソブリン(主権)」は、すべての部品を国内で作るという意味ではありません。現実的には、設計の中身が見えていること、供給が特定の国の判断で止められないこと、機密データを預ける基盤の出どころを説明できること——この3点が本質です。

国内工場でサーバーを組み立て、サプライチェーンの透明性を打ち出しているのは、金融・通信・行政といった、データの置き場所と基盤の出自を問われる顧客を意識しているからでしょう。

「11月発売」の中身も、正確に

見出しだけ読むと「11月から使える」と受け取りがちですが、実際の工程はこうです。

時期内容
2026年11月販売開始(受注の受付)
2026年度下期金融・通信・製造分野の一部の顧客に先行提供
2026年度第4四半期(2027年1〜3月)CPU単体の提供開始
2027年4月以降サーバーの一般出荷(日本・欧州)

一般の事業者が手にするのは、2027年4月以降です。

性能の主張は、出荷後に検証すべきである

富士通は、MONAKAが他のCPUと比べてAI推論のスループットが2倍で、同じ処理に必要なサーバー台数と消費電力を半減できるとしています。

ただし、比較対象のCPUは明示されておらず、ベンチマークの詳細も現時点で公表されていません。 海外の技術メディアからも、実機の出荷時に検証すべき数字だという指摘が出ています。

当サイトとしても、この数字は「メーカーの主張」として扱い、独立した検証を待つ立場を取ります。

現役エンジニアとして、ここを見ている

論点1:既存DCにとって、これは「改修しなくていい」AIである

いま日本のDC事業者が抱える最大の悩みは、既存の空冷施設をどうするかです。液冷対応に改修するには配管工事と受電増強が要り、既存DCの改修は容易ではない。

MONAKAの空冷モデルは、その悩みを抱えた施設に「改修なしで足せるAI」を提供します。性能は水冷に劣っても、設備投資ゼロで使い始められることの価値は、特に中規模の国内DCにとって大きいはずです。

論点2:「40℃で動く」は「40℃で運用できる」ではない

実務上の注意です。

サーバーが周囲40℃に耐えることと、データホールを40℃で運用することは別の話です。 同じ部屋にはストレージ、ネットワーク機器、電源装置があり、それぞれ許容温度が違います。そして保守作業をする人間がいます。

40℃のホットアイルで長時間作業するのは、労働安全の観点から現実的ではありません。MONAKAだけの区画を作る、アイル封じ込めを徹底する——こうした運用設計があって初めて、冷却電力の削減が実現します。

論点3:水冷45℃は、水の問題にとって追い風である

見落とされがちですが、水冷で水温45℃まで使えるという仕様も重要です。

当サイトの水消費の記事で書いた通り、高い水温のまま熱を捨てられれば、蒸発冷却に頼らずに済む領域が広がります。45℃の温水なら、日本の気候では多くの時間を外気で冷やせる。水冷モデルは、水を蒸発させない冷却と相性が良いのです。

論点4:最後の壁はソフトウェアである

これは一般論として書いておきます。

AI推論の世界は、長くGPUを前提としたソフトウェアの上に築かれてきました。Armベースの新しいCPUに、既存の推論ワークロードがどこまで手間なく移るか——ここがハードウェアの性能以上に、普及を左右します。

導入を検討する側は、自社で使うモデルと推論フレームワークが実機でどう動くかを、出荷前の先行提供の段階で確認すべきでしょう。

まとめ

  • 富士通が国産CPU「FUJITSU-MONAKA」と搭載サーバーの販売を2026年11月から開始。144コア・Armv9、2nmと5nmの3次元積層、AI推論向け
  • 空冷なら周囲40℃まで、専用の冷却設備なしで動作。既存の空冷DCに入るAI推論基盤であり、高密度・液冷・800Vという路線の逆側の答え
  • ただし空冷は性能と引き換え。1Uモデルの常用周波数は空冷2.1GHz/水冷2.9GHzで、空冷は水冷の約7割
  • 「国産」は設計とサーバー製造が国内、2nm・5nmのダイはTSMC製。将来はRapidus製NPUとの組み合わせも構想
  • 「11月発売」は販売開始であり、サーバーの一般出荷は2027年4月以降
  • 「推論2倍・電力半減」は比較対象が未公表。出荷後の検証を待つべき数字

すべてのAIが、GPUと液冷と大電力を必要とするわけではない。 これはAIインフラの議論に、久しぶりに加わった「別の道」です。

ただしその道は、性能という通行料を払って通る道でもあります。高密度で速く走るか、既存の設備のまま少し遅く走るか。電力と用地に制約のある日本では、後者を選べることの価値は、数字以上に大きいのではないでしょうか。


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関連用語: GPU / HPC / LLM / フリークーリング / PUE

出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。