銀行が「PUE 1.3以下」を条件に930億円 — STT GDCの印西キャンパスと、お金がデータセンターの設計を決める時代
印西のデータセンターに、930億円の「グリーンローン」
2026年10月27日、シンガポール系のデータセンター事業者STT GDCが、日本のキャンパスのために930億円のグリーンローンを組んだと発表しました(STT GDCの発表)。発表の要点をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 借り手 | STT GDC(シンガポールを拠点とするデータセンター事業者) |
| 金額 | 930億円(約5.9億ドル) |
| 使い道 | 印西市のTYO1・TYO2の2棟の設備工事(フィットアウト)とその後の運営 |
| 規模 | 2棟合計でIT容量70.8MW |
| 場所 | 千葉県印西市のグッドマン・ビジネスパーク内 |
| 貸し手 | スタンダードチャータード(取りまとめ役)、みずほ銀行、OCBC、ソシエテ・ジェネラル、UOB |
| 融資の条件 | グリーンローン原則に沿った枠組み。合意した環境性能の認証を取ることと、設計上のPUEを1.3以下にすること |
2棟の状況は、次のとおりです。
| TYO1 | TYO2 | |
|---|---|---|
| 稼働 | 2025年6月に開業 | 2027年後半に稼働予定 |
| IT容量 | 最大32MW | (2棟合計で70.8MW) |
| 性格 | クラウド・企業向けの汎用 | 高密度のAI・計算処理向け。将来の液冷を前提に設計 |
| 効率・環境 | 年間PUE 1.25未満の設計。2026年8月にLEED Goldを取得。閉ループ冷却で、通常運転中は水を消費しない設計 | TIA-942-C設計認証とLEED Goldを目指す |
TYO1については、運転開始以来、自社の直接・間接の排出(スコープ1・2)をカーボンニュートラルで運営しており、敷地内には太陽光発電も設けているとしています(STT GDCの発表、2026年8月)。
「グリーンローン」とは何か
グリーンローンは、環境によい事業に使い道を限った借り入れです。国際的な業界団体がまとめた「グリーンローン原則」という共通のルールがあり、
- お金の使い道が、環境への効果がある事業であること
- その事業をどう選び、どう評価したかを示すこと
- お金の使われ方と効果を報告すること
などが求められます。
今回のポイントは、その「環境によい」の中身が、「設計上のPUEが1.3以下」という具体的な数字で決められていることです。つまり銀行は、データセンターの設計そのものに条件をつけて、お金を貸しています。
【現場視点】「PUE 1.3以下」は、どれくらいの水準か
PUEのおさらい
**PUE(電力使用効率)**は、
データセンター全体で使う電力 ÷ IT機器(サーバーなど)が使う電力
で計算します。IT機器が100の電力を使うとき、冷却や電源の損失などに30を使えば、PUEは1.3です。理想は1.0で、数字が小さいほど効率がよいことを表します(詳しくはPUEの用語解説)。
国の基準と、ぴったり同じ数字
この「1.3」は、偶然の数字ではありません。資源エネルギー庁は、省エネ法にもとづいて、データセンターに次のような水準を示しています(資源エネルギー庁)。
| 対象 | 水準 |
|---|---|
| データセンター業の特定事業者(ベンチマーク制度) | 2030年度までにPUE 1.4以下を目標に |
| 2029年度以降に新設するデータセンター | PUE 1.3以下を求める(稼働開始から2年を過ぎた翌年度以降)。満たせない場合は、合理化計画の作成・提出を求められ、従わなければさらなる行政措置の可能性 |
国の資料も、1.3は今の目標(1.4)より高い水準だと認めています。STT GDCのグリーンローンの条件は、国が数年後に新設データセンターに求める水準を、今から先取りしていることになります。
現場の感覚では「楽ではないが、手が届く」
日本の夏は高温多湿で、外気だけで冷やせる時間が限られます。空冷が中心のデータセンターで年間PUE 1.3を達成するのは、楽ではありません。一方で、
- 外気で冷やせる季節を長くとるフリークーリング
- 冷たい空気と温かい空気を混ぜない通路の囲い込み
- 損失の少ない電源設備
などを組み合わせれば、最新の設計なら手が届く水準でもあります。TYO1が「年間1.25未満」を設計値にしているのは、その例です。
さらに、TYO2のように液冷を前提にすると、話は変わります。昨日の記事で取り上げたように、ぬるい冷却水でGPUを冷やせれば、チラーをほとんど回さずに済み、PUEを大きく下げられます。AI向けの高密度データセンターほど、液冷によってPUEを下げやすくなるという、少し意外な関係があるのです。
気をつけたい点:「設計値」と「実際の値」は違う
ただし、条件になっているのは「設計上の」PUEです。現場の感覚では、設計値と、実際に運転したときの値には差が出ます。
- 立ち上がりの時期は悪くなる:データセンターは、サーバーが少しずつ入っていきます。IT機器の電力が小さいうちも、冷却や電源の設備は一定の電力を使うため、稼働率が低い時期のPUEは、設計値より悪くなりがちです
- 季節で変わる:夏は冷却に電力がかかり、冬は下がります。だから「年間」の平均で見ることが大切です
国の基準が「稼働開始から2年を過ぎた翌年度以降」としているのも、この立ち上がりの時期を除くためだと考えられます。融資の条件が設計値なのか、実測値の報告まで求めているのかは、発表文からは分かりません。
PUEが測らないもの
PUEは便利な指標ですが、すべてを測るわけではありません。
- 水:冷却塔で水を蒸発させて冷やすと、PUEは下がりますが、水を大量に使います。TYO1が「閉ループで、通常運転中は水を消費しない」ことをわざわざ書いているのは、この点を意識したものです(水の指標はWUE)
- 電気の中身:PUEがどれだけよくても、使う電気が化石燃料由来なら排出は減りません。そのため、STT GDCは認証やカーボンニュートラル運営を別に示しています
つくばの記事で触れたように、地域の住民が気にするのは水や排熱です。PUEの数字だけでなく、水と電気の中身まで含めて見ることが大切です。
【現場視点】「フィットアウト」にお金を貸す意味
今回の融資の使い道は、「フィットアウト(設備工事)」と運営です。
データセンターは、大きく分けて
- 建物の骨組み(シェル):基礎、柱、外壁、屋根
- フィットアウト:受変電設備、UPS、発電機、冷却設備、配管、ケーブルなど
からできています。データセンターの建設費の多くは、実はフィットアウトのほうにかかります。そして、PUEを決めるのも、このフィットアウトの設計です。
つまり、「フィットアウトのためのお金を、PUEの条件つきで貸す」というのは、お金の流れと、効率を決める設備が、ぴったり重なっているということです。銀行が条件をつけるには、いちばん効き目のある場所だといえます。
これは、Anthropicの上場申請書類の記事で取り上げた「建物と中身を分けて押さえる」話とも通じます。データセンターの世界では、建物、設備、中のチップが、それぞれ別のお金で、別の条件で用意される時代になっています。
印西の「グッドマン・ビジネスパーク」
STT GDCのキャンパスがあるグッドマン・ビジネスパークは、豪州の物流不動産大手グッドマンが開発した印西の大型の事業用地です。グッドマンは、つくばで1GWのデータセンター計画を進めている会社でもあります。
印西は国内最大のデータセンター集積地で、AirTrunkの追加投資や、駅前のショッピングモールのデータセンター化など、動きが絶えません。今回の融資は、その印西で、海外の事業者が日本の銀行も加えた銀行団から、環境条件つきでお金を集めるという、資金面の成熟を示す動きでもあります。
まとめ
- STT GDCが10月27日、印西市のTYO1・TYO2(合計70.8MW)の設備工事と運営のため、930億円のグリーンローンを組んだと発表。みずほ銀行など5行が参加
- 融資の条件は、環境性能の認証と、設計上のPUE 1.3以下。この数字は、国が2029年度以降の新設データセンターに求める基準と同じで、それを先取りした形
- TYO1は年間PUE 1.25未満の設計で、LEED Goldを取得し、閉ループ冷却で通常運転中は水を消費しない。TYO2は2027年後半稼働予定のAI向け高密度で、将来の液冷を前提にしている
- 現場の目で見ると、PUE 1.3は楽ではないが手が届く水準。液冷を前提にしたAI向けの施設ほど下げやすい。ただし設計値と実際の値の差、PUEが測らない水と電気の中身には注意が必要
- 使い道がフィットアウトであることは、お金の流れと効率を決める設備が重なることを意味する。銀行が、データセンターの設計に注文をつける時代になった
データセンターの効率は、技術者だけが決めるものではなくなりました。 お金を貸す側が数字で条件をつけ、国が数年後に同じ数字を求める。PUE 1.3は、日本のデータセンターの新しい「標準」になりつつあります。
※アイキャッチ画像はイメージです。STT GDCの実際の施設を写したものではありません。
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関連用語: PUE / WUE / フリークーリング / カーボンニュートラル / Tier認証
出典
一次資料
- STT GDC: STTGDC Secures JPY93 Billion Green Loan to Support Expansion of Tokyo Data Centre Campus(2026年10月27日)
- STT GDC: STT Tokyo 1 Achieves LEED® Gold Certification(2026年8月21日)
- STT GDC: STT GDC Launches STT Tokyo 1(2025年6月25日)
- 資源エネルギー庁: データセンターに関する省エネ法の新たな措置(スペシャルコンテンツ)
報道
この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。