液冷の時代でも、屋上には「空冷」が並ぶ — 三菱商事系KIX15の着工と、日立初のデータセンター用チラーが示すAI冷却の現実

✍️ DCトレンド研究編集部(現役DCエンジニア監修)
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同じ週に、冷却をめぐる2つの発表

2026年10月の同じ週に、データセンターの冷却に関わる国内の発表が2つ続きました。

10月7日、三菱商事系のMCデジタル・リアルティ(MCDR)が、大阪府茨木市で「KIX15」を着工しました。

項目内容
事業者MCデジタル・リアルティ(三菱商事と米デジタル・リアルティが対等出資する合弁会社)
場所大阪府茨木市の彩都エリア、KIXキャンパスの5棟目
規模延床約1万7,700㎡、地下1階・地上3階、免震構造
電源容量サーバー用で24MW
冷却空冷と液冷のハイブリッドに対応
開業2028年第4四半期(予定)
想定顧客ハイパースケーラー、クラウド事業者、AI関連企業

KIX15ができると、MCDRの国内のデータセンターは10棟、サーバー用電源容量は合計約220MWになる見込みです。

10月9日、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が、データセンター向けの空冷式チラー「AIXROSS(アイクロス)」を発表しました。

項目内容
製品データセンター向け空冷式チラーユニット「AIXROSS」
受注開始2027年4月
位置づけ日立のデータセンター向けソリューション「HMAX Data Center」の中核製品。日立GLSにとって初のデータセンター向けチラーと報じられている
主な特徴外気温が低いときに冷媒ポンプで冷やす運転へ自動で切り替える省エネ機能(Hybridタイプ)、停電から復帰したあと素早く定格運転に戻る「高速起動モード」、水をほとんど使わない空冷式
施工チラー本体に加え、配管・ポンプ・タンクなどの周辺設備までまとめて提案・施工

一方は建物、一方は機械の発表です。でも、2つを並べると、同じことが見えてきます。

AIの時代は「液冷の時代」と言われる。それでも、建物の外には「空冷」の機械が並ぶ。 なぜでしょうか。

熱は、最後にどこへ行くのか

ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。そのために、まず熱の流れを追ってみます。

AIサーバーのGPUが出した熱は、次のような順番で建物の外へ運ばれます。

段階場所何が熱を運ぶか
①サーバーの中空冷なら空気、液冷なら冷却板(コールドプレート)を流れる液体
②サーバー室空冷なら空調機、液冷ならCDU(冷却液を配る装置)
③建物の中の配管冷水が、熱を機械室や屋上まで運ぶ
④建物の外チラーやドライクーラー、冷却塔が、熱を外気に捨てる

液冷が変えるのは、主に①と②です。サーバーを空気ではなく液体で冷やすことで、高い発熱にも対応できるようになります。

しかし、④は変わりません。 集めた熱は、最後は必ず外の空気(または水)に捨てる必要があります。そして④の方法は、大きく2つしかありません。

  • 水を蒸発させて捨てる(冷却塔)— 効率は良いが、大量の水を使う
  • 空気に直接捨てる(空冷式チラー、ドライクーラー)— 水をほとんど使わないが、外気温の影響を受けやすい

当サイトは以前、AIデータセンターは水を枯らすのかという記事で、「蒸発させるDC」と「循環させるDC」を分けて考えるべきだと書きました。日立GLSが発表資料で「水資源の制約から空冷式へのニーズが高まっている」と書いているのは、まさにこの点です。

液冷は「サーバーの冷やし方」の話。空冷式チラーは「建物の熱の捨て方」の話。 2つは対立するものではなく、一つの冷却システムの、別の部分なのです。

【現場視点】ハイブリッド冷却とチラーの、ここを見る

論点1:「ハイブリッド」が当たり前になる理由

KIX15は「空冷と液冷のハイブリッド」に対応するとしています。これは、どちらか一方に決めきれないからではありません。現実のデータセンターは、混ざるのです。

  • GPUサーバーは液冷、ネットワーク機器やストレージ、一般的なサーバーは空冷のまま、という構成が多い
  • 液冷のサーバーでも、熱の一部は空気で冷やすことが一般的。電源ユニットやメモリ、基板の周りなどは空気で冷やす
  • 建物は20〜30年使うのに、サーバーは3〜5年で入れ替わる。いま空冷の顧客が、次の世代で液冷に変わることもある

だから、どちらにも対応できる建物であることが、顧客を選ばないための条件になります。当サイトが空室率1%なのに置く場所がないで紹介したように、北米では空いている床があっても高密度のAIを置けない問題が起きています。「ハイブリッド対応」は、その問題を設計の段階で避けるための答えです。

論点2:液冷は「チラーを止める時間」を増やせる

日立GLSのチラーの省エネ機能は、外の空気が十分に冷たいときに、圧縮機を止めて冷媒ポンプだけで冷やすというものです。このように外気の冷たさを使って冷やすことを、一般にフリークーリングと呼びます。

ここで、液冷との相性が生きてきます。

  • 空冷のサーバー室では、冷水を低めの温度で作る必要がある
  • 液冷のサーバーは、比較的高い温度の水でも冷やせることが多い
  • 作る水の温度が高くてよいほど、「外気のほうが冷たい」時間が長くなる。つまり、圧縮機を止められる時間が増える

日本は夏が暑く湿気も多いため、フリークーリングが使える時間は北欧などより短くなります。それでも、冷水の温度を上げられれば、春・秋・冬の多くの時間で省エネ運転ができる可能性があります。日立GLSは「受電容量や非常用発電機の容量を抑えられる可能性がある」としています。冷却の電力が減れば、PUEが下がるだけでなく、受電の契約や設備の大きさそのものを小さくできるのです。

当サイトが送電網の空押さえ対策の記事で書いたとおり、いまは受電の容量を確保すること自体が難しい時代です。冷却の効率は、電気代の問題ではなく、建てられるかどうかの問題になりつつあります。

論点3:停電のとき、チラーが「すぐ戻る」ことの重み

エンジニアとして、AIXROSSの発表でいちばん注目したのは「高速起動モード」です。

データセンターが停電したとき、何が起きるかを順番に見てみます。

  1. 停電の瞬間、サーバーはUPS(無停電電源装置)の電池で動き続ける
  2. 数秒〜十数秒で非常用発電機が起動し、電気が戻る
  3. ここでチラーが再起動する。しかし大型のチラーは、止まってから定格の冷却能力に戻るまで時間がかかる

問題は、2から3のあいだです。サーバーは動き続けて熱を出しているのに、熱を外へ捨てる機械が止まっている。

空冷が中心の昔のデータセンターなら、部屋の空気や冷水の「余裕」で数分は持ちこたえられました。 しかし、1ラックで数十〜100kW以上を使うAIのラックでは、温度が上がる速さがまったく違います。 冷却が数分止まるだけで、サーバーが自分を守るために性能を落としたり、停止したりする危険があります。

だから、AIデータセンターの冷却設計では次のような対策が重要になります。

  • 冷水ポンプをUPSにつなぐ(チラーが止まっても、水は回し続ける)
  • 蓄熱タンク(冷たい水をためておき、復帰までの時間を稼ぐ)
  • チラーそのものの再起動を速くする

日立GLSの発表には、ポンプを外部のUPSにつなげること、タンクを含めた周辺設備まで一体で提案すること、高速起動モードがすべて含まれています。チラー単体の性能ではなく、「停電から冷却が戻るまで」をシステムとして短くしようとしているのが分かります。現場から見れば、ここが最も実務的な価値です。

論点4:KIX15はなぜ「彩都」なのか

KIX15がある茨木市の彩都エリアは、大阪の北部の丘陵地に開発された地域です。MCDRはここで、KIXキャンパスの5棟目を建てています。

関西では、シャープ堺工場の跡地にKDDIとソフトバンクが大型のAIデータセンターを作り、関西電力が原子力発電所の電気を直接届ける契約の窓口を開くなど、AIデータセンターの動きが続いています。

その中でKIX15の特徴は、同じ敷地(キャンパス)に何棟も建て増していくことです。

  • 電気の引き込みや通信の回線を、キャンパス全体で共有できる
  • 同じ顧客が、隣の棟へ増設できる
  • 免震構造で、地震への備えを建物そのもので持つ

MCDRは「関西AIインフラ共創プロジェクト」として、関西でのIT電源容量の拡充や高密度化への対応を中長期で進めるとしています。東京の印西のように、関西でもキャンパス型の集積が進むことを示す着工です。

論点5:日本の空調メーカーが、DCの冷却に本格参入する

最後に、日立GLSの参入そのものの意味です。

データセンター向けの大型冷却設備は、これまで海外の専業メーカーや、空調大手の業務用製品が中心でした。日立GLSは家電や業務用空調の会社で、今回がデータセンター向けチラーの初めての製品とされています。

国内メーカーが参入する利点は、施工と保守にあります。

  • チラーは、一度据え付けたら20年近く使う機械。故障時にすぐ部品と技術者が来るかが重要
  • 日立GLSは、設計から施工まで一貫して担い、遠隔監視サービス「exiida」とつなぐとしている
  • 将来はAIによる故障予知や省エネ制御にも対応する予定

冷却設備の「性能表の数字」だけでなく、「日本で、長く、止めずに使えるか」 が問われる分野です。受注開始は2027年4月。KIX15の開業(2028年第4四半期)とほぼ同じ時期に、日本のAIデータセンターの屋上に並び始めることになります。

まとめ

  • 10月7日、三菱商事系のMCDRが大阪・茨木で「KIX15」を着工。 24MW、空冷と液冷のハイブリッドに対応、2028年第4四半期開業予定。完成後、国内10棟・約220MWに
  • 10月9日、日立GLSが初のデータセンター向け空冷式チラー「AIXROSS」を発表。 2027年4月受注開始。フリークーリング的な省エネ運転、停電後の高速起動、水をほとんど使わないのが特徴
  • 液冷が変えるのはサーバーの冷やし方。熱を外へ捨てる部分は変わらず、水を使うか、空気に捨てるかの選択が残る
  • 現場の論点は5つ。ハイブリッドが当たり前になる理由、液冷はチラーを止める時間を増やせる、停電時に冷却が戻るまでの時間がAIでは死活問題、彩都のキャンパス型集積、国内メーカー参入の意味は施工と保守

液冷の時代でも、屋上には空冷の機械が並びます。 AIデータセンターの冷却は、「液体か空気か」ではなく、サーバーから外気までの熱の道筋をどう組み立てるかの勝負になっています。


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関連用語: 液冷 / DLC / フリークーリング / PUE / WUE / UPS

出典

この記事は DCトレンド研究 が独立した第三者の立場で執筆しています。